演目一覧 / 人情噺
「芝浜」の一場面のイラスト

芝浜

しばはま

腕はいいのに酒びたりの魚屋の勝は、夜明けの芝の浜で大金の入った財布を拾います。仲間を呼んで大酒をした翌朝、女房は「そんな財布は知らない、夢でも見たんだろう」と言うのでした。年の暮れによくかかる、夫婦の人情噺です。

分類
人情噺
系統
江戸。上方では『夢の革財布』
成立
三遊亭圓朝の三題噺(酔漢・財布・芝浜)がもととされるが、確かではない
季節
冬。大晦日の晩が山場で、年の暮れによく演じられる
舞台
芝の浜(今の港区芝のあたり)と裏長屋
カテゴリ人情噺
登場人物魚屋の勝勝の女房長屋の大家
舞台夜明けの芝の浜裏長屋表通りの店
見どころ夜明けの浜の描写大晦日の女房の告白杯を置くサゲ

あらすじ

天秤棒をかついで売り歩く魚屋の勝は、腕は確かなのに酒に溺れて仕事を休んでばかり。ある朝、女房にせき立てられてしぶしぶ芝の魚市場へ向かいますが、時刻が早すぎてまだ開いていません。誰もいない浜で顔を洗い、一服していると、波打ち際に革の財布が沈んでいました。

中には見たこともない大金。勝は飛んで帰り、長屋の仲間を呼んで大酒を飲んで寝てしまいます。ところが翌朝、女房は「財布なんか知らない。お金ほしさに夢でも見たんだろう」と言うのです。家じゅう探しても財布はなく、勝は情けなくなって酒をきっぱり断ち、人が変わったように働き始めました。

三年がたち、勝は表通りに店を構えるまでになりました。その年の大晦日の晩、女房はあの財布を取り出し、あれは夢ではなかったと打ち明けます。拾った金に手をつければ重い罪になると心配して、大家と相談のうえお上に届け、勝には夢だと言いくるめたのでした。落とし主は現れず、金はとうに下げ渡されていました。

勝は女房を責めるどころか、自分を立ち直らせてくれたことに頭を下げます。女房は、久しぶりに一杯どうかと酒を勧めました。勝はためらいながらも杯を受け取り、口元まで運びますが……。

サゲ 結末を含みます

タップしてサゲを見る

「よそう。また夢になるといけねえ」

三年前は本当のことを夢にされた男が、いまの幸せまで夢になっては困る、と杯を置くひと言です。笑いで落とすのではなく、しみじみと幕を引くサゲの代表例です。女房を「よくできた賢い妻」に描くか、「だましてすまなかった」と泣いて謝る人に描くかで、噺の印象が大きく変わります。

浜を描くか、描かないか

戦後、三代目桂三木助が練り上げた型が評判を呼び、名作として広く知られるようになりました。一方で、浜の場面の扱いや女房の人物像は演者によってかなり違います。

演者浜の場面特徴
三代目 桂三木助夜明けの浜を絵のように描く冒頭に芭蕉の句を挟む独自の演出。1954年に芸術祭奨励賞を受賞
五代目 古今亭志ん生描かない慌てて帰ってきた勝が、財布を拾った話を女房に語って聞かせる
三代目 古今亭志ん朝描かない志ん生と同じく、勝の語りで浜の出来事を伝える
七代目 立川談志描写を抑える、ときに省く女房を、泣いて謝る偉ぶらない人として描く
上方舞台を住吉の浜に移し、『夢の革財布』の題で演じられる

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

夜明けの浜

  • 勝なんでえ、まだ誰もいやしねえ。あいつ、時刻をまちがえて起こしやがったな。
  • (潮水で顔を洗い、煙管をくわえて海を眺める。ふと足もとに目を落とす)
  • 勝……おや、ひもが出てるぜ。なんだ、こりゃ。革の財布じゃねえか。

翌朝

  • 勝おい、昨日の財布はどこへしまった。
  • 女房財布? なんの話だい。お前さん、帰ってくるなりお酒飲んで寝ちまったじゃないか。
  • 勝そんな……じゃあ、あれは夢だってのか。

大晦日の晩

  • 女房お前さん、怒らないで聞いておくれ。この財布に、見覚えがあるだろう。
  • 勝……こいつは。
  • 女房あの朝のは、夢じゃなかったんだよ。ずっとだましていて、ごめんなさい。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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