演目一覧 / 人情噺
「火事息子」の一場面のイラスト

火事息子

かじむすこ

神田の質屋・伊勢屋の一人息子は、子どものころから大の火事好き。とうとう臥煙(定火消しの火消し人足)になって体じゅうに彫り物を入れ、親から勘当されます。ある北風の強い冬の日、店の近所から火が出て、慣れない番頭が蔵の目塗りに四苦八苦していると、屋根伝いに一人の火消しが現れて……。

読み
かじむすこ
分類
人情噺
系統
江戸
舞台
神田の質屋・伊勢屋(神田三河町とする演者もいる)
季節
冬(北風の強い日の火事)
原話
享和元年(1801)の小咄本『笑の友』の「恩愛」
カテゴリ人情噺
登場人物伊勢屋の若旦那(藤三郎・徳三郎など、演者によって名が違う)伊勢屋の旦那(父親)おかみさん(母親)番頭小僧の定吉
舞台神田の質屋・伊勢屋伊勢屋の土蔵の屋根
見どころ高い所が苦手な番頭の目塗り屋根伝いに現れる臥煙意地を張る父親の小言母親の喜びと着物の場面

あらすじ

神田の質屋・伊勢屋の一人息子(演者によって藤三郎・徳三郎など)は、子どものころから火事が好きでたまりません。火消しになりたいと町内の鳶頭に頼みますが、親が先に手を回していて、どこの組にも入れてもらえませんでした。

それならと、若旦那は幕府の火消屋敷に抱えられる臥煙になってしまいます。臥煙は体じゅうに彫り物を入れ、堅気には見られない稼業。旦那は一人息子を勘当しました。

何年かたった北風の強い冬の日、伊勢屋の近所から火が出ます。質屋にとって何より大事なのは、預かり物をしまった蔵。火が入らないよう蔵の戸前に土を塗りこめる「目塗り」をしたいのに、左官の手が回りません。仕方なく、高い所が大の苦手な番頭が蔵の屋根に上がり、小僧が下からこねた土を放り上げますが、番頭は受け取れず、あたりは泥だらけです。

そこへ屋根伝いに一人の火消しが駆けつけ、番頭の帯を蔵の折れ釘に引っかけて体を支えてやりました。両手の使えるようになった番頭は無事に目塗りを済ませ、やがて火も収まります。

番頭が引き止めたその火消しこそ、勘当された若旦那でした。旦那は「勘当した者に会う筋はない」と突っぱねますが、番頭のとりなしで対面します。寒空に半纏一枚、彫り物だらけの息子を前に、旦那は他人行儀に礼を言いながら、親不孝を嘆く小言が止まりません。

そこへ母親が駆けつけ、息子との再会を素直に喜びます。せめて着物を持たせてやりたいと言う母親に、旦那は「そんなものは捨ててしまえ。捨てておけば拾っていくだろう」と意地を張ります。その言葉の裏を汲んだ母親は、あれも捨てよう、これも捨てようと、着物に小遣い、黒羽二重の紋付きまで並べはじめ……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「火事のおかげで会えたんですから、火元へお礼にやりましょう」

立派な紋付きを着せて小僧までつけようとする母親に、旦那が「そんななりをさせてどこへやるんだ」と聞くと、この一言で終わります。火元は本来なら迷惑をかけられた相手なのに、そこへ礼に行こうという、親心が勝ってちぐはぐになったおかしみです。辞典では「ぶっつけ落ち」「考え落ち」などと分類されています。

臥煙と町火消し

若旦那がなったのは、町人の町火消しではなく、幕府の定火消しに抱えられた臥煙でした。町火消しには親が先に手を回していたため入れてもらえず、臥煙になったことで、勘当という形になってしまいます。二つの違いを知っておくと、旦那の嘆きがよく分かります。

臥煙(定火消し)町火消し
抱え主幕府の定火消し(旗本が率いる火消屋敷)町人の自治の組(いろは四十八組など)
担い手火消屋敷に寝泊まりする火事人足鳶職や大工などの職人
世間の見方彫り物を入れた荒っぽい稼業で、堅気には見られなかった町内の顔役として頼りにされた

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

蔵の目塗り

  • 番頭旦那さま、あたしは物干しに上がっても膝が笑う口でして……。
  • 旦那ぐずぐず言うな。蔵に火が入ったら、お預かりの品がみんな灰になるんだ。
  • (屋根の上で、下から飛んでくる土をつかみ損ねるしぐさ)
  • 番頭定吉、もっと加減して投げろ。顔に塗ってどうするんだ。

屋根伝いの火消し

  • 火消し番頭さん、じっとしていなせえ。帯をこの折れ釘に掛けときゃ、落っこちやしねえ。
  • 番頭ああ、ありがたい。両手が空きました。……どなたか存じませんが、恩に着ます。
  • 火消し礼なんざいらねえ。目塗りは番頭さんの手柄だ。おれは何もしちゃいねえよ。

親子の対面

  • 旦那どちらの方か存じませんが、このたびはお世話になりました。……そんな格好で寒くはないのか。
  • 若旦那へえ、この稼業は冬でも半纏一枚で。
  • 母親まあ、すっかり大人になって……。おまえさん、着物を一枚持たせてやっておくれよ。
  • 旦那勘当した者にやる着物などない。……どうしてもと言うなら、捨ててしまえ。捨てておけば、誰かが拾っていくだろう。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋は古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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