演目一覧 / 人情噺(雪の夜の逃走劇)
「鰍沢」の一場面のイラスト

鰍沢

かじかざわ

身延山へお参りした江戸の旅人が、帰り道の大雪で道を失います。やっと見つけた山中の一軒家で迎えたのは、もとは吉原の花魁だったというお熊。旅人の財布の大金に目をとめたお熊は、しきりに玉子酒をすすめて……。

分類
人情噺(雪の夜の逃走劇)
系統
江戸
成り立ち
初代三遊亭圓朝が「小室山の御封」「玉子酒」「熊の膏薬」の三つのお題から作った三題噺とされる(お題には別の説もある)。河竹黙阿弥による後半の台本が残ることから、黙阿弥の作とする説もある
別題
鰍沢雪の酒宴、鰍沢雪の夜噺、月の輪お熊
舞台
甲州・身延山からの帰り道、鰍沢の山中の一軒家と川
季節
冬(大雪の夜)
カテゴリ人情噺
登場人物江戸の旅人お熊猟師の伝三郎
舞台身延山の帰り道鰍沢の一軒家雪の崖と川
見どころ囲炉裏端のお熊の身の上話毒入りの玉子酒護符を飲んでの雪中の逃走鉄砲に追われて崖から川へ

あらすじ

江戸の旅人が身延山へお参りした帰り、大雪で道に迷います。日も暮れ、凍えかけたところで、山の中に灯りのともる一軒家を見つけ、一晩泊めてほしいと頼みました。

迎えたのは、粗末な家に似合わない色っぽい女、お熊。囲炉裏で温まるうちに、旅人はそれが吉原で名の知れた花魁だったと気づきます。聞けば男と心中しそこなって廓を抜け出し、いまはその男と夫婦になって、この山の中で暮らしているといいます。亭主は猟師で、熊の膏薬を売っているのだそうです。

旅人は素性を黙っていてほしいと頼まれ、礼にと財布から金を出します。財布の大金に目をとめたお熊は、下戸の旅人に玉子酒をしきりにすすめ、亭主の寝酒を買いに里へ出かけていきました。旅人は少し口にしただけで酔いがまわり、奥の部屋で横になります。

そこへ亭主の伝三郎が帰ってきて、残っていた玉子酒を飲んでしまいます。戻ったお熊が驚くうちに、伝三郎は苦しみ出しました。酒にはしびれ薬が入っていて、お熊は旅人の金を奪うつもりだったのです。

それと知った旅人も体がしびれて思うように動きません。持っていた毒消しの護符(小室山の御封)を雪といっしょに飲みこみ、這うように家を抜け出します。お熊は鉄砲を持って、雪の中を追ってきました。

追いつめられた旅人は崖から落ち、岸につないであった筏の上へ。そのはずみでつなぎ綱が切れ、筏は流れ出します。やがてばらばらになった筏の材木一本にすがりながら、夢中でお題目を唱えるところへ、お熊の撃った弾がそれて岩に当たりました。

サゲ(オチ) 結末を含みます

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「お材木(お題目)で助かった」

命拾いしたのはお祖師様(日蓮)のおかげ、という締めくくりです。すがりついた筏の「お材木」と、唱えていた「お題目」をかけた地口です。

三題噺から生まれた噺

三題噺は、客から出された三つのお題をその場でひとつの噺にまとめる趣向です。鰍沢のお題は「小室山の御封」「玉子酒」「熊の膏薬」とされ、毒消しの護符、しびれ薬の玉子酒、熊の膏薬を売る猟師の亭主と、どれも筋の大事なところに入っています。お題を「鉄砲」「玉子酒」「毒消しの護符」とする説もあります。

三題噺のお題噺の中での役まわり
一つめ小室山の御封旅人が雪といっしょに飲みこむ毒消しの護符
二つめ玉子酒お熊がしびれ薬を入れて旅人にすすめる酒
三つめ熊の膏薬お熊の亭主・伝三郎の商売

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

雪の一軒家

  • 旅人ごめんください。道に迷ってこの雪で、もう足が動きません。軒下でもかまいませんから、ひと晩お貸しいただけませんか。
  • お熊こんな山の中じゃ、ほかに家もありゃしません。むさくるしいところですけど、さあ、火のそばへ。
  • 旅人ありがたい……。おや、おかみさん、どこかでお目にかかったような。

玉子酒

  • お熊冷えた体には、これがいちばんですよ。熱いうちにおあがんなさい。
  • 旅人これはご親切に。下戸なもので、ほんのひと口だけ……。おや、なんだか急にまぶたが重くなってきた。
  • (湯呑みを両手で包み、ふうふうと吹いて飲むしぐさ)

雪の崖

  • 旅人体がしびれて言うことをきかない。そうだ、毒消しの御封がある。……南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
  • (足を滑らせ、崖下の川へ。扇子を鉄砲に見立てて構える)

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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