演目一覧 / 江戸・東京では「地獄めぐり(地獄巡り)」。五代目笑福亭松鶴のSPレコードでは「弥次喜多地獄の旅」
「地獄八景亡者戯」の一場面のイラスト

地獄八景亡者戯

じごくばっけいもうじゃのたわむれ

鯖の刺身にあたって死んだ喜六は、冥土への道で先に亡くなった伊勢屋のご隠居とばったり。芸者や幇間を連れた若旦那の一行も加わり、三途の川の渡しから芝居小屋や寄席が並ぶ冥途筋、そして閻魔の庁へ。後半は、地獄行きを言い渡された曲者の四人が、鬼たちをとことん困らせます。通しで演じると一時間を超える、上方の大きな噺です。

読み
じごくばっけいもうじゃのたわむれ。「八景」は「はっけい」ではなく「ばっけい」と読みます
別題
江戸・東京では「地獄めぐり(地獄巡り)」。五代目笑福亭松鶴のSPレコードでは「弥次喜多地獄の旅」
分類
滑稽噺(上方では旅の噺に数えられる)
系統
上方(東京では初代三遊亭圓遊が「地獄めぐり」として移した)
原話
三代目桂米朝によれば、天保10年(1839)刊の小咄本『はなしの種』にある話がもっとも古い形
舞台
冥土の道から三途の川、六道の辻の冥途筋、閻魔の庁、そして地獄
構成
前半はあの世めぐり、後半は地獄行きの四人と鬼の騒動。通しで演じると一時間を超える
ゆかり
田島征彦の絵本『じごくのそうべえ』の下敷き。2016年には米朝の追善として大阪松竹座で芝居になった
カテゴリ滑稽噺
登場人物喜六伊勢屋のご隠居若旦那と芸者・幇間閻魔大王山伏の螺尾福海軽業師の和屋竹の野良一歯抜き師の松井泉水医者人呑鬼
舞台冥土の道三途の川六道の辻の冥途筋閻魔の庁地獄
見どころ三途の川の渡し冥途筋の芝居小屋と寄席閻魔大王の出御熱湯の釜と針の山人呑鬼の腹の中の大騒ぎ

あらすじ

鯖の刺身にあたって死んだ喜六は、冥土への道をとぼとぼ歩くうちに、先に亡くなった伊勢屋のご隠居と再会します。そこへにぎやかにやって来たのが、芸者や舞妓、仲居、幇間を引き連れた若旦那の一行。地獄見物をしようと、河豚を食べてそろってあの世へやって来たという、のんきな顔ぶれです。

三途の川のほとりの茶店では、娘が三途河(しょうづか)の婆の身の上や、渡し舟の移り変わりを語って聞かせます。渡し賃は死に方によって違うというので、亡者たちはひと騒ぎ。このあたりは演者がその時々の世相を入れて笑わせるところです。

川を渡って六道の辻へ出ると、地獄の目抜き通り「冥途筋」に芝居小屋や寄席がずらりと並んでいます。芝居には亡くなった名優がそろい、寄席には東西の名人上手の名前。演者が自分の名を出して「近日来演」と言うのが、おなじみのくすぐりです。

一行はいよいよ閻魔の庁へ。恐ろしい形相の閻魔大王が現れ、亡者たちに次々と裁きを下していきます。その中から地獄行きを言い渡されたのが、山伏の螺尾福海、軽業師の和屋竹の野良一、歯抜き師の松井泉水、それに医者の四人。ここからが後半です。

ところがこの四人がそろって曲者。熱湯の釜に放り込まれると、山伏が呪文を唱えて湯をちょうどよい加減にし、温泉気分。針の山では、軽業師がほかの三人を抱えて、ひょいひょいと渡ってしまいます。それならと、人を呑む大きな鬼・人呑鬼に食わせようとすると、歯抜き師が鬼の歯をすっかり抜いてしまいました。

怒った人呑鬼は、四人をまとめて丸呑みにします。ところが腹の中には医者がいます。体の中の筋に詳しい医者の案内で、四人があちこちの筋を引っ張ると、鬼は笑い出すやら、くしゃみをするやら、おならをするやら。さんざん好き放題にされた人呑鬼は、とうとう閻魔大王のもとへ泣きつきます。「こうなったら、大王さま、あんたを呑むよりしゃあない」。閻魔が「わしを呑んで、どうする」と問いますと……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「大王を呑んで、下してしまうのや」

漢方の下剤「大黄(だいおう)」と、閻魔「大王」をかけた地口です。今では大黄がなじみにくいこともあり、二代目桂枝雀は、嘘をつけば閻魔に舌を抜かれるという言い伝えを踏まえたサゲに変えました。四人を「極楽へやる」とだまして外へ出させた閻魔が、嘘をついたというので自分の舌を抜かれてしまう、という結末です。

上方の地獄八景と東京の地獄めぐり

戦前の上方では演じ手が限られていましたが、三代目桂米朝が1954〜55年ごろ三代目笑福亭福松に教わり、組み立て直したものが今の「地獄八景」のもとになりました。東京では初代三遊亭圓遊が明治の中ごろに移し、圓遊の名を継いだ代々が「地獄めぐり」として演じてきました。

上方「地獄八景亡者戯」東京「地獄めぐり」
伝わり方三代目笑福亭福松から三代目桂米朝へ。米朝が組み立て直し、一門を中心に受け継がれている初代三遊亭圓遊が東京へ移し、圓遊の代々の噺に。四代目圓遊の録音が残る
発端鯖にあたって死んだ喜六が、冥土の道でご隠居と再会する初代圓遊の型では、隠居にもらった薬を飲んだ二人連れが地獄へ旅をする
長さ通しで一時間を超える四代目圓遊の録音は、内容が少し異なり時間も短い
サゲ「大王(大黄)を呑んで下す」の地口。二代目桂枝雀は閻魔が舌を抜かれる形に変えた初代圓遊の明治25年(1892)の速記では、薬が「大王の黒焼」だったと明かして地口で落とす

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

冥土の道

  • 喜六あれっ、そこ行くのは伊勢屋のご隠居やおまへんか。
  • 隠居おお、喜ぃさんか。お前もこっちへ来たんかいな。
  • 喜六へえ、鯖の刺身がちょっと古うて。ご隠居、お葬式のときはえらいお世話……いや、お世話したんはこっちでしたな。
  • 隠居まあええ。どうせ急ぐ旅やない。ぼちぼち一緒に行こか。

熱湯の釜

  • 鬼さあ、ぐらぐら煮え立った釜や。どぼんと入れ。
  • 山伏待て待て。(指で印を結んで、口の中でもごもご唱える)……よし、入ってよろしい。
  • 軽業師あ、ほんまや。ぬるうもなし熱うもなし、ええ湯加減や。
  • 医者これは体によろしい。肩までつかって、百数えなはれ。
  • 鬼……おい、なんで鼻歌が聞こえてくるねん。

鬼の腹の中

  • 歯抜き師えらい暗いとこやな。先生、ここはどのへんです。
  • 医者胃の腑の入り口あたりや。ほれ、そこにぶら下がってる筋、それを引いてみなはれ。
  • (ぐいと引く手つき。とたんに外から、鬼の大きな笑い声)
  • 山伏おもろいな。ほな、こっちのはどうや。
  • (もう一本引くと、今度は「はっくしょん」と腹の中まで大揺れ)

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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