演目一覧 / 錦嚢(きんのう)
「夢金」の一場面のイラスト

夢金

ゆめきん

大雪の降る晩、舟宿の二階で「金くれえ」と寝言を言いながら眠る船頭の熊五郎。そこへ浪人風の男が、若い娘を連れて舟を出してくれと頼みに来ます。酒手をはずむと聞いて渋々漕ぎ出した大川の上で、男は熊五郎に小声で恐ろしい話を持ちかけ……。

読み
ゆめきん
別題
錦嚢(きんのう)
分類
滑稽噺
系統
江戸
舞台
大川(隅田川)の舟宿と、雪の夜の川の上
季節
冬(大雪の夜)
原話
安永2年(1773)刊の笑話本『出頬題』の「七ふく神」とされる
カテゴリ滑稽噺
登場人物船頭の熊五郎(熊蔵とも)舟宿の主人夫婦浪人風の男大店の娘
舞台大川(隅田川)の舟宿雪の夜の大川川の中洲
見どころ寝言で金をねだる船頭雪の夜の川の描写舟の上の小声のやりとり中洲に置き去りにする機転夢落ちのサゲ

あらすじ

大雪の降る晩、ある舟宿の二階で、船頭の熊五郎(熊蔵とする本もあります)が眠っています。金に汚いことで知られた男で、寝言でも「金くれえ」と言うほど。舟宿の主人夫婦もあきれ顔です。

そこへ、身なりのいい若い娘を連れた、人相のよくない浪人風の男がやって来て、兄妹だと名乗り、舟を出してくれと頼みます。こんな雪の晩に出たがる船頭はいませんが、酒手をはずむと聞いて熊五郎が起き出し、引き受けました。

漕ぎ出してはみたものの、熊五郎は二人を駆け落ちと見て面白くなく、ぶつぶつ言いながら櫓を乱暴に扱います。男は酒手を足すと言って艫のほうへ寄ってきて、舟を止めさせ、小声で話を切り出しました。

男が言うには、兄妹というのは嘘で、娘は大店の娘だ。家を出るときに二百両を持ち出していて、狙いはその金。町なかで手にかけると足がつくから、舟の上で始末したい。手を貸せば分け前を五十両やる、というのです。

熊五郎は断りますが、男に脅されると、折れたふりをして「人目のない場所がある」と川の中洲へ舟を着けます。男が先に中洲へ降りたところで、すかさず舟を突き出し、男を雪の中洲に置き去りにしてしまいました。

熊五郎は娘を連れて舟宿へ戻り、主人夫婦にわけを話します。夫婦は熊五郎の機転をほめ、娘は無事に親元へ帰されました。後日、娘の家から熊五郎あてに礼の包みが届きます。中には切り餅(二十五両の包み)が二つ、五十両の大金です。熊五郎がその重みをかみしめようとしたところで……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

目が覚めると、熊五郎がしっかり握りしめていたのは、自分の大事なところでした。

ここまでがすべて夢だったという夢落ちで、金を握ったつもりの手の中身でそれを知らせるのが本来のサゲです。三代目三遊亭金馬は、サゲをきれいにするため、単純に夢から覚めるだけの形にしていたといわれます。演題の「夢金」は、この結末から来ています。

原話と似た話

原話は安永2年(1773)刊の笑話本『出頬題』にある「七ふく神」とされています。大金を手にした夢から覚めると、握っていたのは自分の体だったという趣向の笑い話は、この前後の本にもいくつか見られます。

本刊行
『きのふはけふの物語』曽呂利新左衛門の逸話として載る寛永13年(1636)
『笑話出思録』漢文体の笑話集。「吉夢の凶」宝暦5年(1755)
『出頬題』江戸の笑話本。「七ふく神」(原話とされる)安永2年(1773)
『軽口夜明烏』上方の小咄集。「ひとつはほんの事」天明3年(1783)

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

舟宿の二階

  • 熊五郎うーん……金、くれえ……。
  • おかみまあ、寝てまでお金の話をしてるよ、この人は。
  • 主人放っておけ。こんな雪の晩だ、もう客も来やしねえ。
  • 浪人頼もう。夜分にすまぬが、舟を一艘出してもらいたい。酒手は望みどおりにはずむ。
  • 熊五郎(がばっと起きて)へい、出します、出します。酒手と聞いちゃあ、雪も何もありゃしません。

雪の大川

  • (櫓を押しながら、降りしきる雪を見上げるしぐさ)
  • 熊五郎ちぇっ、駆け落ちのお供かい。こっちは鼻水まで凍りそうだってのに、いい気なもんだ。
  • 浪人船頭、ちと話がある。舟をしばらく止めてくれ。……声を落とせ。
  • 熊五郎へい、何です、酒手の話なら大きな声でも構いませんが。
  • 浪人あの娘、懐に大金を持っておる。手を貸せば、そのうちから五十両、そちにやろう。

中洲

  • 熊五郎……旦那、そういうことなら、ちょうどいい場所がございます。この先の中洲なら、人っ子ひとりおりません。
  • 浪人うむ、気の利く男だ。では、わしが先に降りて足場を見よう。
  • 熊五郎どうぞどうぞ、足元にお気をつけて。……そらよっ。
  • (棹で舟をぐいと突き出すしぐさ)
  • 熊五郎旦那、そこで一晩、雪見酒でもやっておくんなさい。お嬢さん、もう大丈夫だ。しっかりつかまってなさいよ。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋は古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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