演目一覧 / 『七度狐庵寺潰し』(しちどぎつねあんでらつぶし)、『庵寺つぶし』(あんでらつぶし)
「七度狐」の一場面のイラスト

七度狐

しちどぎつね

伊勢参りの途中、喜六と清八は煮売屋から木の芽和えをすり鉢ごと持ち出し、食べ終えたすり鉢を道ばたへ放り投げます。それが当たったのは、人を七度も化かすという狐。安眠を邪魔された狐の仕返しで、麦畑は大河に見え、泊まった庵寺には棺桶が次々と運び込まれ……。上方の旅の噺『東の旅』の一編です。

読み
しちどぎつね。上方では「ひちどぎつね」、江戸では「ななたびきつね」と読むとされます
別題
『七度狐庵寺潰し』(しちどぎつねあんでらつぶし)、『庵寺つぶし』(あんでらつぶし)
分類
滑稽噺
系統
上方・江戸(もとは上方の噺で、江戸落語にも移されて演じられる)
原話
寛政10年(1798)刊の笑話本『無事志有意』の「野狐」。前半の煮売屋のくだりは、安永2年(1773)『聞上手』三篇の「白狐」
構成
伊勢参りの道中を描く『東の旅』(本題『伊勢参宮神乃賑』)の一編。前の『煮売屋』と続けて演じられることが多い
舞台
大坂から奈良を抜けて伊勢へ向かう道中の煮売屋、麦畑、庵寺
ゆかり
大倉崇裕の推理小説『七度狐』は、この演目の題を書名にしている
カテゴリ滑稽噺
登場人物喜六清八煮売屋の主人七度狐百姓庵寺の尼さん
舞台煮売屋麦畑庵寺
見どころ木の芽和えの持ち逃げ麦畑を大河と思って渡る二人庵寺の棺桶と亡者狐の返す地口のサゲ

あらすじ

伊勢参りに出かけた喜六と清八は、道中の煮売屋(いまでいう簡単な食べ物屋)で一服します。イカの木の芽和えを頼みますが、主人は「それは売り先が決まっている」と言って出してくれません。

腹を立てた二人は、木の芽和えをこっそり笠に隠して店を出てしまいます。歩きながら平らげ、空になったすり鉢を道ばたへぽいと放り投げると、そこで寝ていた狐に命中しました。これが、ひとたび恨むと人を七度も化かすという七度狐です。

安眠を邪魔されて怒った狐は、さっそく二人を化かしにかかります。目の前に大きな川が現れ、二人は着物を脱いで裸になり、おそるおそる渡りはじめます。ところがそこは、ただの麦畑。見ていた百姓に「狐に化かされたんと違うか」と言われ、二人は青くなって道を急ぎます。

目についた庵寺に泊めてもらうことにします。ところがこの寺も狐の仕掛け。尼さんが「通夜がある」と出かけてしまうと、棺桶がいくつも運び込まれてそのまま置いていかれ、棺桶の中から亡者が「金返せ」と迫ってきたり、妖怪変化が現れたりと、二人は恐ろしい目にあいます。

そこへ昼間の百姓が再びやって来て、二人を正気づかせます。百姓が狐に向かって「ええ加減にせんかい」と怒鳴りつけますと、狐が言い返しました。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「ええ加減に庵寺つぶせ」

「ばかなまねをやめる」という意味の上方ことば「あんだら尽くす」にかけた地口です。このことばが通じない江戸の型では、百姓と一緒に狐を狩り出し、尾をつかまえたと思ったら抜けてしまい、じつは畑の大根だった、というサゲになります。三代目桂米朝は2004年の正月に、狐を追いつめたと思ったら水車の上を踏んでいた、という新しいサゲも使いました。

『東の旅』の中の七度狐と、江戸の七度狐

『東の旅』は、喜六と清八が大坂から奈良を抜けて伊勢へ参り、近江・京都を回って大坂へ戻るまでを、いくつもの演目でつないだ道中の噺です。行きの道は『発端』『奈良名所』『野辺』『煮売屋』『七度狐』『うんつく酒』……と続きます。上方のサゲは上方ことばの地口なので、江戸に移された型ではサゲを変えて演じます。

上方江戸
読み方ひちどぎつねななたびきつね
噺の置かれ方『東の旅』の一編。『野辺』の次の『煮売屋』と続けて演じられることが多い上方から移されて演じられる
サゲ「ええ加減に庵寺つぶせ」。上方ことば「あんだら尽くす」との地口狐の尾をつかんだと思ったら、畑の大根だった。このサゲは二代目桂小南によるものとされる

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

煮売屋

  • 喜六おっさん、その棚の上のイカの木の芽和え、あれ一皿ちょうだい。
  • 主人あきまへん。あれはもう、よそへ行く先が決まってまんねん。
  • 喜六ほな、なんで見えるとこに置いとくねん。目の毒やないか。
  • 清八まあまあ喜ぃ公、黙っとけ。……ええか、おっさんが奥へ入った隙に、わしの笠の下や。

大きな川

  • 喜六清やん、えらいこっちゃ。さっきまで道やったとこが、いつの間にか川になってるで。
  • 清八しゃあない、着物脱いで頭の上へくくりつけえ。そろりそろり行くで。……深いで、気ぃつけや。
  • (裾をからげ、腰を落として、一歩ずつ足で川底を探る。扇子を杖代わりに突く)
  • 百姓そこの裸の二人、麦畑の真ん中で何してなはる。

庵寺の夜

  • 喜六清やん、尼さん、通夜や言うて出て行ったきり、帰ってけえへんな。
  • 清八その代わりに、棺桶ばっかり増えていきよる。ひい、ふう、みい……。
  • (棺桶の蓋がことりと動く。二人で抱き合い、首だけそちらへ向ける)
  • 喜六あかん、いま中から声がした。金返せ、て……。わし、誰にも借りてへんで。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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