演目一覧 / 人情噺(お店もの)
「百年目」の一場面のイラスト

百年目

ひゃくねんめ

大店の番頭は、奉公人に小言ばかり言う堅物で通っています。ところがその正体は大の遊び人。得意先回りと偽って店を抜け出し、屋形船に芸者や幇間をあげて花見へ繰り出します。浮かれて遊ぶ最中、ばったり出くわしたのは、よりによって店の大旦那でした。番頭は首を覚悟しますが、翌朝、大旦那が語り出したのは……。登場人物が多く、演じるのが難しい大きな噺として知られる人情噺です。

分類
人情噺(お店もの)
系統
上方・江戸
別題
番頭百年目
原話
並木正三『軽口東方朔』(1762年)の「手代の当惑」とされる。今の形は『軽口片微笑』(1770年)の「うろたへても機転」を改めたものとみる説もある
成り立ち
上方の噺が東京へ移されたとする説がある一方、東京でも文化年間の演題帳(喜久亭寿暁『滑稽集』)に題が見えることから、移植か偶然の一致か決め手はないともいわれる
舞台
大店と、花見でにぎわう川べり(上方では大川から桜ノ宮、江戸では向島)
季節
春(桜の満開のころ)
カテゴリ人情噺
登場人物大店の番頭大旦那店の奉公人芸者幇間
舞台大店屋形船花見の土手
見どころ番頭の小言花見の席での鉢合わせ眠れぬ一夜大旦那の「だんな」の話

あらすじ

ある大店の番頭は、勤めて何十年という古株。帳場に座れば、奉公人たちの細かいことにまで小言を並べる口やかましい堅物で、店の者からは煙たがられています。

ところがこの番頭、実は大の遊び人。この日も「お得意先を回ってくる」と言って店を出ると、粋な着物にこっそり着替え、手配しておいた屋形船へ。芸者や幇間をあげてにぎやかに、桜の満開の花見へ繰り出します。酒が回るとすっかり浮かれ、船を下りて土手で遊びはじめました。

ちょうどそのころ、店の大旦那も、出入りの医者と連れ立って同じ場所へ花見に来ていました。番頭に気づいた大旦那は、気を遣ってそっと避けようとします。ところが、芸者たちを追いかけ回していた番頭がつかまえたのは、その大旦那。上方では、目隠しをして追いかける「目ン無い千鳥」の遊びの最中で、目隠しを外した目の前に大旦那がいた、という運びです。

酔いもいっぺんに醒めた番頭は、その場にひれ伏し、思わず「長らくご無沙汰をいたしております」。大旦那は座をしらけさせないよう、言葉少なにその場を離れていきました。

店へ逃げ帰った番頭は、気分が悪いと言って床に入りますが、眠れるはずもありません。暇を出されるに違いない、いっそ今のうちに逃げてしまおうかと思い悩むうちに、夜が明けてしまいます。

翌朝、大旦那に呼ばれた番頭が覚悟を決めて行くと、大旦那は穏やかに、天竺の「赤栴檀(しゃくせんだん)」という立派な木と、その根元にはびこる「難莚草(なんえんそう)」という草の話を始めます。草は木の露で育ち、木は枯れた草を肥やしにして育つ。持ちつ持たれつのこの間柄から「だんな」という言葉ができたという話です。大旦那は番頭の日ごろの働きぶりをほめ、店では番頭が木で奉公人が草、下の者にもゆとりを持たせてやってほしいと諭します。そして、不正をせず自分の甲斐性で稼いだ金なら、使うときは惜しまず使えばいいと言うのでした。恐縮する番頭に、大旦那は最後にひとつだけ尋ねます。きのうはなぜ、長いこと会っていないような挨拶をしたのか、と。

サゲ(オチ) 結末を含みます

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「お顔を見られて、ああ、これが百年目と思いました」

「百年目」は、運の尽き、もう逃れられない最後の時のことです。仇討ちで「ここで会ったが百年目」というのと同じ言い回しで、大旦那に見つかったのは「もうおしまいだ」という思いが、思わず「長らくご無沙汰」という挨拶になって出た、という落としどころです。

上方と江戸

筋もサゲもほぼ同じですが、店と花見の場所が土地に合わせて変わります。上方では大阪・船場の大店の番頭が大川を屋形船で上り、江戸では向島の桜の土手が花見の場になります。

上方江戸
店大阪・船場の大店江戸の大店
花見の場所大川を屋形船で上った桜ノ宮隅田川の向島の土手
よく知られる演者三代目桂米朝六代目三遊亭圓生

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

帳場の小言

  • 番頭これ、そこの小僧さん。お前さん、さっきから何べん同じ所を拭いてるんだい。手より口のほうがよく動くね。
  • 小僧へえ、すいません。
  • 番頭それから私はね、きょうはお得意様を回ってくるから、帰りは遅くなるよ。留守のあいだ、しっかり頼みますよ。
  • (店の者が顔を見合わせて、そっと胸をなでおろす)

花見の土手

  • 番頭さあさあ、どこだい、つかまえたら一杯ずつ飲ませるよ。……ほうら、つかまえた!
  • 大旦那……これはこれは、番頭さん。
  • 番頭だ、だ、旦那さま……。な、長らくご無沙汰をいたしております。
  • 大旦那いや、邪魔をしたね。皆さん、どうぞごゆっくり。

翌朝の座敷

  • 大旦那番頭さん、ゆうべは眠れなかったような顔だね。まあ、お茶でもおあがり。
  • 番頭へえ……。どのようなおとがめも、覚悟しております。
  • 大旦那とがめる話じゃない。自分で稼いだお金なら、使うときは使ったらいい。ただね、ひとつだけ聞かせておくれ。きのうはなんで、長いこと会わなかったような挨拶をしたんだい。
  • 番頭へえ。お顔を見られて、ああ、これが百年目と思いました。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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