演目一覧 / 滑稽噺(昭和に作られた新作落語ですが、今では古典に近い扱いを受けています)
「代書屋」の一場面のイラスト

代書屋

だいしょや

昭和の大阪、町の代書屋に、読み書きのできない男が履歴書を頼みにやって来ます。生年月日は「わからん」、職歴は始めてすぐやめた商売ばかり、賞罰を聞けば大食い大会の自慢話。書いては消し、消しては書く代書屋の苦労が笑いを呼びます。作者は、自身も代書屋を営んでいた四代目桂米團治。今では東京でも広く演じられる上方の噺です。

読み
だいしょや。作者がつけた題は『代書』(だいしょ)で、上方ではこちらの題でも呼ばれます
分類
滑稽噺(昭和に作られた新作落語ですが、今では古典に近い扱いを受けています)
系統
上方(東京では、二代目桂小南から柳家喜多八へと伝わり、江戸噺の形でも広く演じられる)
原作
四代目桂米團治(1896–1951)の作。1938年(昭和13年)に大阪市東成区の自宅で代書人を開業し、その経験をもとに作りました。1939年4月15日の「上方はなしを聴く会」で初演、速記は雑誌『上方はなし』第46集(1940年5月)に載っています
舞台
昭和の大阪の町の代書屋(作者の代書事務所がモデル)
構成
前半は無筆の男の履歴書、後半は字にうるさい老人と、その使い(作者の原作では、老人と使いのあいだに渡航証明書を頼む客も来ます)。今はふつう、前半の男のくだりで切ります
ゆかり
2009年、作者の代書事務所の跡にあたる東成区役所の敷地に顕彰碑が建ちました。2026年10月には、噺の男が本籍として語る浪速区日本橋の寺・大乗坊に「上方落語『代書』ゆかりの地」の碑が建立されています
カテゴリ滑稽噺
登場人物代書屋無筆の男中風の老人老人の使いの女性
舞台大阪の代書屋
見どころ扇子を筆に見立てた代書の仕草ちぐはぐな生年月日の割り出し始めてすぐやめた商売ばかりの職歴大食い大会の自慢名前が書けなくなる代書屋

あらすじ

町の代書屋へ、読み書きのできない男が「履歴書を書いてほしい」とやって来ます。代書屋は扇子の筆を構え、男の言うことを聞きながら紙に書き取っていきます。

ところが、本籍や住所を聞けば余計な目印まで付け加え、名前の字は「そちらで決めて」、生年月日は「そんなものはなかった」。代書屋は、男が覚えている昔の出来事から、生まれた年を逆算するはめになります。

職歴を聞くと、友だちに道具を借りて巴焼き(今川焼き)の店を出そうとしたが家賃が高くてやめた、夜店で下駄の減り止めを売ったが寒くて二時間でやめた、と始めてすぐやめた話ばかり。そのたびに代書屋は、書いた行に線を引いて消します。本職を聞けば、川底をさらって鉄くずを拾う「がたろ」。代書屋は、なんとか履歴書らしい言葉にこしらえます。

賞罰の欄では、男は胸を張って「新聞に載った」と言い出しますが、聞けば大食い大会で表彰された話。今はたいてい、このあたりで噺を切ります。

通しで演じると後半があります。中風で字が書けないという老人が来て、結納の受け取りを頼みますが、筆や墨にさんざん注文をつけたうえ、表の看板の字を見て「あまり名筆でない」と言い残し、帰ってしまいます。

やがて老人の使いの女性が、失礼のおわびにと過分な筆料を持って来ます。受け取りに名前を書いてほしいと言われ、老人がじつは名の知れた書家だったと聞かされた代書屋は、すっかり固くなって自分の名前が書けません。女性が代わりに見事な字で代書屋の名を書き、その横に、小さな字で添えたのが……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「自署不能に付き代書す」

最初の男の履歴書で、名前の横に、代書屋が書き添えたのと同じ文句です。人の代わりに書くのが商売の代書屋が、最後は自分が代わりに書いてもらう側になる、というサゲです。後半まで演じられることは今では少なく、前半の男のくだりで切るのがふつうです。三代目桂米朝は「ほんまは大食いのオチ」と語っており、二代目桂枝雀は男の本職をポン菓子屋に変え、「ポン!」と弾ける大きな仕草で落としました。

作者の原作と、演者による型の違い

作者の四代目桂米團治から弟子の三代目桂米朝に伝わり、米朝が三代目桂春団治と二代目桂枝雀に教えて広まりました。前半だけで切るようになってからは、演者ごとに男の名前やくすぐりを変える工夫が重ねられています。東京では二代目桂小南から柳家喜多八へと伝わり、江戸噺の形で多くの落語家が手がけています。

四代目米團治の原作三代目桂米朝二代目桂枝雀
演じる範囲最初の男、字にうるさい老人、渡航証明書を頼む客、老人の使いまで、客が次々に来るふだんは最初の男のくだりで切る(「ほんまは大食いのオチ」と語っている)。1983年の追善会では原作に近い形で演じた
無筆の男の名太田藤助田中彦次郎
男の本職と結末後半の受け取りの署名「自署不能に付き代書す」でサゲ新聞社主催の大食い大会で表彰された話で終わる
生年月日のくだりもとは「まだ食べたことがない」と答える形だった。六代目笑福亭松鶴の証言では、松鶴の提案で、「なかった」と答える今の形になった—

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

本籍を聞く

  • 代書屋まず本籍や。あんたの生まれたとこの番地を言うてんか。
  • 男生まれたとこ……おかんの話では、産婆さんの家の奥の間やそうで。
  • 代書屋部屋まではいらん。産婆さんの家を本籍にする人がおますかいな。
  • 男ほな、今住んでるとこでよろしいわ。角のうどん屋の二軒隣。
  • 代書屋……うどん屋も書かんでよろし。

職歴を聞く

  • 代書屋ほな、これまでやってきた商売を、古い順に言うてもらおか。
  • 男最初は巴焼きだす。友だちが、道具が余ってるさかい使え、言うて。
  • 代書屋(扇子の筆をさらさらと走らせる)『菓子製造販売を営む』と。で、何年ぐらいやりなはった。
  • 男いや、場所借りよう思たら家賃が高うて。焼いてはおまへん。
  • (書いたばかりの行に、扇子の先で、すうっと線を引く)
  • 代書屋やってへん商売まで並べられたら、紙がなんぼあっても足りまへんがな。

賞罰を聞く

  • 代書屋賞罰。まあ、表彰されたことなんか、おまへんわな。
  • 男おまっせ! 写真入りで新聞に載りましたんや。
  • 代書屋ほう、それは大したもんや。人助けでもしなはったか。
  • 男ぼた餅の大食い大会で、表彰されましたんや。
  • 代書屋……そんなもん、履歴書に書けますかいな。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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