演目一覧 / 滑稽噺
「愛宕山」の一場面のイラスト

愛宕山

あたごやま

大阪をしくじって京都の祇園で働く幇間の一八と繁八は、春の日に旦那や芸妓・舞妓のお供で愛宕山へ登ります。山上の茶店でかわらけ投げに興じた旦那は、とうとう本物の小判を谷底へ。拾った者にやると聞いた一八は、茶店の傘を開いて崖から飛び降りますが……。春の山の景色と、幇間の大奮闘が見どころの噺です。

読み
あたごやま。山の名にならって「あたごさん」と読む説もあります
分類
滑稽噺
系統
上方・江戸(もとは上方の噺で、三代目三遊亭圓馬が東京へ移した)
原話
不詳とされる
舞台
京都の祇園から二条城の先の野辺を抜け、愛宕山の山上の茶店へ
季節
春(気候のよい時分の野駆け)
ゆかり
噺に出てくるかわらけ投げは、今の愛宕山では行われていない。同じ山並みの高雄山・神護寺で投げることができる
カテゴリ滑稽噺
登場人物幇間の一八幇間の繁八(茂八とも)京都の旦那芸妓・舞妓茶店の婆さん
舞台京都・祇園春の野辺愛宕山の山道山上の茶店と谷底
見どころ大阪の山自慢荷物を背負っての山登り旦那のかわらけ投げ傘で谷底へ飛び降りる一八竹のしなりで崖の上へ

あらすじ

一八と繁八は、大阪のミナミをしくじって京都の祇園で働く幇間です。春のある日、旦那が「気候もいいし野駆けに行こう」と言い出し、芸妓や舞妓、お茶屋の女将も連れて、一行は西へ出かけます。

二条城を過ぎて野辺に出ると、舞妓にせがまれた一八は蝶々を追いかけますが、逃げられた上に転んでさんざんな目に。行き先が愛宕山と聞いて、旦那から「大阪には山がないから、山登りはつらいだろう」とからかわれた一八は、大阪にも真田山や茶臼山があると言い返しますが、「そんなものは地べたのできもの」と相手にされません。意地になって「愛宕山くらい、ひょいひょい登ってみせます」と大口をたたいたため、一行の荷物を全部背負わされ、二人は慣れない山道ですっかり音を上げてしまいます。

ようやく山上の茶店にたどり着くと、店先には素焼きの皿、かわらけが積んであります。崖の上から谷底の的をめがけて投げる、かわらけ投げの道具です。旦那は手慣れたもので、次々に的へ入れていきますが、一八がまねをしても少しも当たりません。悔しまぎれに「大阪の者はこんなものは投げない、金貨銀貨を投げて遊ぶ」と負け惜しみを言うと、旦那は懐から小判を取り出し、ほんとうに谷底へ投げてしまいました。

あの小判はどうなるのか、と一八が聞くと、旦那の答えは「投げたものだ、拾った者のもの」。下へ降りる道は遠くて危ないと茶店の婆さんに聞かされた一八は、店に干してあった大きな傘に目をつけます。これを広げて飛び降りれば、ふわりと谷底に着けるはず。ところが崖っぷちに立つと足がすくんで動けません。見かねた旦那が繁八に耳打ちし、繁八に背中を突かれた一八は、傘につかまって谷底へ降り立ちました。

夢中で小判を拾い集め、旦那から「それはお前のものだ」と言われて大喜びの一八。ところが「で、どうやって上がってくる?」と聞かれて、はたと困ります。降りることばかり考えて、上がる手立ては何も考えていなかったのです。

そこで一八は、着ていた長襦袢を裂いて縄をない、先に石を結んで、谷の斜面に生えた大きな竹のてっぺんへ投げて巻きつけます。力いっぱい竹を引いて大きくしならせ、地面をひとつ蹴ると、竹の勢いで一気に崖の上へ。みごと旦那たちのもとへ戻ってきた一八に、旦那が感心して声をかけ、小判のことを尋ねますと……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「あっ、忘れてきた」

命がけで谷底へ降り、知恵をしぼって戻ってきたのに、肝心の小判は谷底に置いてきてしまった、という結末です。

上方の愛宕山と江戸の愛宕山

もとは上方の噺で、三代目三遊亭圓馬が大阪で覚えて東京へ移し、八代目桂文楽が圓馬から授けられました。上方では、春の野辺や山登りの場面に鳴り物(はめもの)がふんだんに入り、山道では、愛宕山の参道の茶店で女が客を呼び込むのに歌っていた唄も出てきます。

上方江戸
幇間大阪のミナミをしくじり、京都の祇園で働く大阪の幇間江戸っ子の幇間。旦那も江戸弁で演じる
噺の味わい京都の旦那と大阪の幇間の気質のちがいや、お茶屋遊びの華やかさが出る幇間の一八に焦点をしぼった演出
小判への執着幇間の金への執着が強く描かれる金への執着をさらりと描き、さわやかな笑いにする
伝わり方文の家かしく(のちの三代目笑福亭福松)から三代目桂米朝へ伝わった型と、四代目桂文枝から五代目桂文枝へ伝わった型がある三代目三遊亭圓馬が東京へ移し、八代目桂文楽が受け継いだ

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

大阪の山

  • 旦那一八、お前は大阪の生まれやさかい、山なんぞ登ったことないやろ。
  • 一八とんでもない。大阪にかて真田山も茶臼山もございます。
  • 旦那あんなもん、地べたにできたおできみたいなもんや。
  • 一八言わはりましたな。愛宕山くらい、鼻歌まじりで駆け上がってみせます。
  • 旦那ほう、頼もしい。ほな、みんなの荷物もついでに頼むわ。

崖っぷち

  • 一八傘さえ開いとったら、ふわあっと下へ降りられるはずや。……はずやけど、下、えらい遠いなあ。
  • 繁八一八っつぁん、まだかいな。日が暮れてまうで。
  • 一八急かさんといて。いま、心の中で念仏を……。
  • (繁八がそっと背中を押す。扇子を傘の柄に見立て、両手でしがみついたまま体を沈めていく)

谷底

  • 一八あった、あった、ここにも一枚。旦那、これ、ほんまにわたしがもろてよろしいんで。
  • 旦那ああ、お前のもんや。ところで一八、どないして上がってくるつもりや。
  • 一八上がる……。あっ、そこまでは考えてまへんでした。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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