演目一覧 / 『不動坊火焔』『幽霊稼ぎ』(ゆうれいかせぎ)
「不動坊」の一場面のイラスト

不動坊

ふどうぼう

長屋の利吉に、亡くなった講釈師・不動坊火焔の女房お滝との縁談が舞い込みます。条件は、不動坊の残した借金の肩代わり。前からお滝に惚れていた利吉は二つ返事で、その晩に祝言と決まりました。ところが湯屋で浮かれて口にした悪口が、同じ長屋の独り者の耳に入り……。屋根の上の大騒ぎが聴きどころの、にぎやかな噺です。

読み
ふどうぼう。「不動坊火焔(ふどうぼうかえん)」の題でも演じられます
別題
『不動坊火焔』『幽霊稼ぎ』(ゆうれいかせぎ)
分類
滑稽噺
系統
上方・江戸(二代目林家菊丸の作とされる上方の噺を、三代目柳家小さんが東京へ移した)
舞台
長屋の利吉の家と湯屋、祝言の夜の屋根の上
季節
冬(上方の口演では、雪の降る寒い夜として語られる)
ゆかり
1940年(昭和15)に口演が自粛された「禁演落語」53演目のひとつ
カテゴリ滑稽噺
登場人物長屋の利吉不動坊の後家お滝大家すき返し屋の徳さん長屋の独り者たち講釈師の道斎(幽霊役)
舞台長屋湯屋祝言の夜の屋根の上
見どころ湯屋でののろけと失言屋根の上の内輪もめ幽霊と利吉の押し問答

あらすじ

長屋の利吉は、ひとり者ながら堅実で、たくわえもある男。そこへ大家が縁談を持ってきます。相手は、旅先で急に亡くなった講釈師・不動坊火焔の女房お滝。不動坊の残した借金三十五円を肩代わりしてくれるなら、という条件つきです。前からお滝に惚れていた利吉は二つ返事で、今晩さっそく祝言と決まりました。

身ぎれいにしておこうと湯屋へ出かけた利吉は、湯につかって新婚の暮らしを思い描くうちにすっかりのぼせ上がり、同じ長屋の独り者三人の悪口まで口に出してしまいます。運の悪いことに、そのうちのひとり、すき返し屋の徳さんが同じ湯に入っていました。

腹の虫がおさまらない徳さんは、悪口を言われたほかの二人にも話して仕返しを相談します。不動坊と同業の講釈師・道斎を仲間に引き込み、不動坊の幽霊に仕立てて祝言の席に出し、二人をこわがらせて縁談をこわしてしまおうという企みです。

その夜、一同は利吉の家の屋根に登り、天井の引き窓から幽霊を縄で吊り下ろす段取り。ところが屋根の上では仲間うちのもめごとが絶えず、なかなか思うように進みません。

やっと下りてきた幽霊が「恨めしい」と迫っても、利吉は平気な顔です。仲人を立てての縁組で、借金も肩代わりした、恨まれる筋合いはないと言い返され、道斎は返す言葉がありません。利吉が回向料にと十円差し出すと、四人では割り切れないと道斎がねだり、とうとう二十円に。

下から幽霊が二人を祝う声が聞こえてきて、仲間たちはあわてて縄を引き上げようとしますが、釣り合いを崩して屋根から転げ落ち、道斎は部屋の中へどすん。正体がばれた道斎に、利吉は「講釈師が幽霊のまねをして銭を取るのか」と詰め寄ります……。

サゲ(オチ) 結末を含みます

タップしてサゲ(オチ)を見る

「へえ、幽霊稼ぎ人でおます」

明治のころ、落語家や講釈師は「遊芸稼ぎ人(ゆうげいかせぎにん)」という鑑札を受けていました。その「遊芸」と「幽霊」をかけた地口です。今ではなじみのない言葉なので、マクラで鑑札の話をしてから演じることが多い噺です。江戸では、五代目柳家小さんによれば、東京へ移した三代目柳家小さんがサゲを変えました。回向料は十円のまま、怒った仲間が縄を引き上げてくれず、吊られたままの幽霊に「まだ浮かばれねえのか」と聞くと「いえ、宙にぶら下がっております」と答える形です。

上方の不動坊と江戸の不動坊

二代目林家菊丸の作とされる上方の噺を、三代目柳家小さんが東京へ移しました。筋の運びはほぼ同じですが、人物の名前や幽霊役、終わり方が違います。東京では四代目、五代目と、小さんの代々に受け継がれました。

上方江戸
花婿利吉利吉。九代目桂文治の型では吉兵衛
仕返しの仲間漉き直し屋の徳さん、かもじ・鹿の子の活け洗い屋の裕さん、東西屋の新さん漉返し屋の徳さん、鍛冶屋の鉄つぁん、チンドン屋の万さん(九代目桂文治の型)
幽霊役不動坊と同業の講釈師・道斎年寄りの万年前座の噺家(九代目桂文治の型)
幽霊の結末屋根から落ちて正体がばれる縄に吊られたまま宙ぶらりん
サゲ「幽霊(遊芸)稼ぎ人」の地口「宙にぶら下がっております」

名場面のセリフ 当サイトの書き下ろし

縁談

  • 大家利吉っつぁん、急な話やけどな、お前、嫁はんもらう気はないか。
  • 利吉そら、くれる人があったら、いつでももらいますけど。
  • 大家不動坊さんとこのお滝さんや。借金のあと始末をしてくれる人やったら、という話でな。
  • 利吉お、お滝さん! 借金でも何でも持ってきとくなはれ。今晩でよろしいか、今晩で。
  • 大家誰も今晩とは言うてへんがな。……まあ、ええわ。今晩にしよか。

湯屋

  • 利吉(湯の中で目を細めて)お滝さんが来たら、まず何て言うたろ。「よう来てくれた」……いや、もうちょっと男らしゅう。
  • 利吉それにしても、長屋の独り者、ろくなんおらんで。徳さんなんか、紙すき返しとるうちに、自分の顔までくしゃくしゃや……。
  • (湯気の向こうで、ざぶりと立ち上がる音)
  • 徳さん……誰の顔が、くしゃくしゃやて。

屋根の上

  • 徳さんええか、道斎先生。下りたら、ぐっと恨めしそうな声で頼んまっせ。
  • 道斎心得た。こちとら釈場で鍛えた喉や。……せやけど、この縄、ほんまに大丈夫か。
  • (引き窓から、白い着物の道斎がそろそろと下りていく)
  • 道斎恨めしい……わしの位牌の前で、ようも祝言なんぞ……。
  • 利吉なんや、不動坊さんかいな。こっちはちゃんと仲人立てて、借金まで払うたんやで。恨まれる覚えはないわ。
  • 道斎……それを言われると、こっちも弱い。

特定の落語家の口演を書き起こしたものではありません。筋とサゲは古典のまま、セリフは当サイトで書き下ろしています。

主な演者

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